黒クロソロゲームRP やりなおしからT1まで

ああ、駄目だ、もう駄目だ。今回の風邪はもう命の灯を消す風だ。
どうにもならぬのが自分でも良く分かる。
カトプトーが私の顔を覗き込んでくる。
近頃はこのように鏡の外にも出てきている。
自分の命がなくなるだけならばまだしも、今の自分にはカトプトーがいる。
あれはどうしているだろうか。
飢えるということはないだろうが、水が尽きればあれの運命も尽きるであろう。
ああ、誰か……誰かに……このことを……
カトプトー……

……夢?
……なんだ、夢か。
酷い夢を見た……気がする。風邪で死んで、自分が世話をしていた子供……子供だった思うが、それも弱って死んでゆく夢。
何度か自分が死ぬ夢は見たことはあるが、こんなにも酷いと思う夢は初めてだな。
旅の途中、もうすぐ次の都市に着くというところで雨に降られ、悩んだあげくに洞窟で野宿をすることにしたのは昨日の話。
今の天気は曇天。確かこの地方では良い天気とされてるはずだ。これならば問題なくたどり着けるだろう。
だが、この夢見の悪さ。このままコフに向かうのも少し気分が悪いし、そうだな……仕事道具を作って心を落ち着けるか。
持っている材料を組み合わせ、文様を描く。水を張る窪みを整えれば、水鏡の土台だ。
簡易で質素、そして小さいものだが、まあまあ良くできた。
神殿にある大きな物を手入れするだけでなく、小さくても良いので自ら作ることで初めて経験になり、身になる。それこそがこの職業では肝要なのだというのが親の数少ない教えだった。
後は水を張れば水鏡として働くはず。飲み水しか綺麗な水は無いが、もうすぐそこに市が見えているし使ってしまおう。
波を立てぬように静かに注ぐ。ゆっくりと、ゆっくりと。
……おかしい、気を付けているはずなのだが、おかしい。
何故か何度も波が立ってしまう。
何度も、何度も、波紋が生まれる。
自分の顔がうまく見えない。
ああ、これは、涙だ、涙が落ちているのだ。
何で、涙なんかを流しているのだろうか。
何かとても悲しいことがあったような……大事なことを忘れているような……そんな感じがする。

いや、たかが夢だ。気にするほどの事でもない。
涙を拭って、改めて水鏡に向かう。
うん、何の問題もない。問題……は、無い、こともない。
何だ?この、影は。

T1
どうしてこうなった。まず頭に浮かんだのがそのことだった。
水鏡を見て、その出来を確認して、それで終わり、そのはずだった。
はずだったのだが……影を見つけてしまった。影というか、動く何かだ。
水鏡に自分とダリド以外が映るなど聞いたことがない。
そして自分には既にダリドがある。ということはこれは自分のダリドではないはずなのだ。
目は……ある、口はないか。手足は、ふわふわしてるな。
人と言われれば人の子供にも見えるし、それ以外の動物と言われればそうとも見える。
となると……まったくわからん。
わからんが……これを放っておくわけにもいかない。
というか、消えないし。ずっといるしなんだコイツ。
うむ、とりあえず水を流してみよう。それで消えたら幻か見間違えだ。
……ちゃんと消えた。よし、これでもう一度水を入れてみよう。
居る……しかもちょっと弱っている様子だ。
待て、待て待て待て、なんでそう、ちょっと責めるような目で見るんだ。
水を抜くと死ぬのか?水がないと死ぬのか?
そうか……ではこれはこのままここに置いて行こう。少し勿体無いが、仕方なs

「ぴーっ!」

どこらかともなくそんな声が聞こえた。
鳥……はこの辺りに居ないな、近場には畑もないし、人も居ない。
いや、分かってはいるんだがな、まさか、まさか、

「ぴーっ!ぴーっ!」

どうやら口は無くても鳴き声は出るらしい。
いやいや、これをこのまま市まで持っていくのはちょっと大変だがお前。
……やれと。
見つめるその目はそうしろとしか言っていないようであった。
まあ、幸いにしてコフまではもうちょっとしかないから良いものの、ただの学者に無理をさせる。
仕方なし、か。

「分かった、分かった分かった。お前も連れて行くよ」
「ぴっ!」
「だが、いくつか守ってもらうことがある」
「ぴ?」

言葉が通じることにもはやなんの驚きもない。通じるなら好都合だ。
水鏡を持ち上げ、どうにか水が無くならないようにうまく傾けてコフを見せる。

「あそこがこれから行くコフだ。あれが町だ」
「ぴー」
「あそこでは鳴かないこと。人に迷惑がかかるからな」
「ぴっ!」
「私が良いと言うまで なるべく動かないこと。できれば見えないくらいの位置にいてくれ」
「ぴっ!」

無駄に良い返事に不安を感じたが、こっちも仕事の時間が迫っているしもう行かねばならぬ。
なるべく揺らさないように、安定して持てるように……ああ、ちょっとそこらの蔦を借りて使うとするか。
なんか、揺りかごの様だな。まだそういう歳ではないというのに、子育てするはめになるなんて。
これも仕方なし、かな。

「ナニコレ」
「ぴー……」

そうしていざ市に入ったが、隠れていてくれとかそういう話ではなかった。
一言で全て説明できる。戦争が起こっていた。
どこかの大きな家同士の勢力争いの様だが、ひどい有様だ。
これでは神殿で仕事をするのも難しかろうな。
仕方ない、ここはひとつ引き返して、近くの町に向かうとs

「貴様!旅の者か!」

うん、これは見覚えがある。色んな街を渡り歩いてきているからな、何度も見た。
これは、奴隷狩りだ。
戦争で減った労働力を補うため、または戦闘力そのものにするため、旅の者や奴隷を強制的に狩り取る。
戦争の悪習にして、自分みたいな職業の天敵だ。

「貴様!応えぬか!よし、ではこちらに来てもらおう!」

決まりの文句を叫ぶ兵士、色は黒か。よし、黒い家には今後近づかぬ。
そして、今もだ。
水鏡に入っていた水を顔に向けて投げつけ、一目散に走りだす。
後ろで何かわめいている声が聞こえるがそんなことを気にしている暇はない。
水が無い状態で長くはおられぬし、何より、あそこに逃げ込まねばなるまい。
何度もそういうのを見てきて、なおかつ生き残ってきた私の秘策。
ここにそれがあることは知っていたから、その匂いのする方へと走って行く。
ほどなく、見えてきた。
後ろからももう追手が迫ってきている。
脇目もふらず、そこにいる人たちの声も気にせずに一息に飛び込んだ。
そう、海に。
同時に腰から下の感覚が希薄になる
それが水と共に動いて、うねって、やがて力強くそれを打ちつける。
そこにはもう人の足は無く、魚の如き下半身があった。
自分のダリドは人魚、自在に海を泳げるモノになるのが我がダリス。
地上の喧騒はもはや聞こえないが、奴隷一人に船を出すほどの労力はかけられぬとみて、追手の船は出なかった。
これは幸い。そのままちょっと沖まで泳いでさっさと逃げるとしよう。

「おおい、大丈夫か?」
「……ぴー……」

少し離れたところに岩場を見つけ、一息つくことができたのは一刻ほど後であった。
海で泳ぐのも久しく少し気分転換とおもって長く潜っていたが、水鏡を持っていたことを思い出して慌てて水面に出たのである。
本来なら綺麗な水ではないといけないのでこれはまずいなと思ったが、どうやら海水でも普通に出てこれるようだ。これは楽だな。
だがしばらく表に出てこられなかったからか、相当弱っているようであった。
海水であることも関係しているのかもしれないが、こればかりは少し比較してみないと分からない。
うむ、これは、正直に言おう。かなり、興味深い。
水鏡の手入れをして旅をしてはいるものの、元は学者だ。こういう分からないことがあると興味を引かれる。
子育て、いいだろう、やってやろうじゃないか。

「決めたぞ、お前が何者か、なんなのか、育てて解明してやる」
「ぴ?」
「お前は、今日から私の子供だ」
「……ぴー」

そうと決まれば必要なのは、名前だな。いつまでもお前では不便だし。
水鏡の中に居る物、それでいて完璧でない者、よし決めた。

「お前の名前は、カトプトー。カトプトロン(鏡)に成りきれぬ者、カトプトーだ」
「ぴー!」

うむ、言葉は分からぬがどうやら喜んでいるらしい。
よし、立派に育て上げてやろう。そうだな、立派な学者にでもしてやろう。

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